2011-05-25 Wed

ロスアンジェルスで亡くなった母が遺したNoritakeの8点ディナーセットを最近処分した。
勿論ゴミにしたのではない。近くの骨董品屋に引き取ってもらったのである。
1958年、戦争未亡人だった母は、当時聖路加病院でタイピストとして生計を立てる間に知り合ったアメリカ軍人と再婚、最初は日本に残しておかれるはずだった私も共にアメリカに渡ることになった。忘れもしない移民のパスポートだった。
もう帰ってこられないだろうという想定の元に記念にと思ったのか、あるいはアメリカでよほど豪勢な生活が待ちかまえていると勘違いしたのか、本当のことはわからないが、思い出の品として買い求めたのがこのセットだった。
アメリカ各地、そしてさらに当時の西ドイツまで40数年、母と一緒に転々とした食器だったが、私の記憶する限り一度として8点を使う正餐は、開かれなかった。陸軍軍曹の家庭とは無縁の食器だった。
2004年母が亡くなった後、何を持ち帰ろうかということになったが、ノリタケの名前を見て家内が異常な興味を示し、ほかのものは捨ててもこれは持ち帰ろうということになった。家内はこのセットをいわゆる「オールドノリタケ」だと思ったらしく、引っ越し屋に頼んで梱包してもらったところ数万円はかかった。
折角日本に里帰りした数少ない母の想いのこもった遺品として、私はずっと手元においておきたかったのだが、「今の家を引き払って介護の直前まで住める小さなマンションに入りたい」という家内の希望で、引っ越すことになった。ずっと家内の敷地でヤドカリ生活を送ってきた私としては徹底的に反対する理由もない。
思い出の食器も処分することになったが、ノリタケのホームページを見ても情報は容易に得られず、一度見てもらおうということになった。ところが、出張鑑定してくれた骨董品屋がつけた値段は何とセットで1万円。家内も拍子抜けした様子で、「高く売れたら海外旅行に行こう」などと調子の良いことを言った自分も恥ずかしい。さて、どうしたものか。
しかし、ここで骨董屋の主人曰く、この手のセットは何も8点で売る必要はない。思い出の品なら2点を自分で持っていて、残りを手放せば良いではないかという。さすがプロ。
8人のディナーなど年金生活者のわれわれは恐らく永久に開くことはないだろう。ただただ持っているくらいなら、誰かこのようなセットに興味のある人の手元に渡った方がよほど良い。引き取ってもらった後、自分で選んだペアは夫婦で毎日使い、せいぜい母のことを思い出してやろう。そう考えたら大分すっきりした。
あのノリタケもう誰かの手にわたったのだろうか。
この文章を書いた日は母の日。5月17日は母の命日。2004年に亡くなったのだから、もう丸7年になる。
母の思い出は尽きない。
スポンサーサイト