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Author:okitot
短波時代の英語アナウンサー。NHKの国際放送ラジオジャパンで25年間ほどニュースを読んでいました。そのご縁で現在NHK World TVインターネット放送のHP更新のお手伝いをしています。

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「東京ローズ」のことなど
今年(2010年)の終戦記念日に「東京ローズ」は誰だったか、を探訪する番組を「テレ朝」で見た。

かれこれ10年ほど前、UCLA日本同窓会のホームページに「東京ローズと私」と題する文を投稿したことがあるが、その後「東京ローズ」は亡くなり、ホームページはアーカイブ化されて一般には公開されなくなった。しかし話題はまだ生きている。

今日この日記を本格的に始めるに当たって、まずはこの一文を再録することにした。歴史に翻弄された一庶民「東京ローズ」に私という越境人間の魂が共鳴したのであろう。改行と若干の言い回しの手直しはしたが、基本的には10年前の感想のままである。

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「東京ローズと私」
   豊田 沖人(L&S,MA’71)

「東京ローズ」。第2次世界大戦中、日本から連合軍向けに英語宣伝放送を行った日系二世のアナウンサー、アイバ・トグリ・ダキノ(Iva Toguri D’Aquino)、日本名戸栗郁子のことである。

ロスアンゼルス生まれの彼女は地元の大学在学中の1941年、叔母の病気見舞いに来日したが、12月の戦争勃発により帰国できなくなり、生活のためにタイピストとしてNHK海外局に勤務していた。職場でスカウトされ、連合軍向け宣伝放送「ゼロ・アワー」の放送を行った。当時トグリを含む女性アナウンサーは前線の米軍兵士に「東京ローズ」と呼ばれ、評判になったが、戦後名乗り出たのは彼女一人であった。

アイバ・トグリと私はもちろん面識などないし、まだ生きていれば高齢の日系二世の女性と終戦の年に日本で生まれた私との間に共通項などあるはずがないと思われるかもしれないが、実は二つ有る。

そのひとつは、戦前彼女が放送した「ラジオ東京」で、ここはついこの間まで私が勤務していたNHKの短波放送「ラジオ・ジャパン」の前身にあたり、私にとって彼女はいわば職場の「大先輩」なのである。

戦前の放送があからさまな対米プロパガンダであり、戦後の放送が国連憲章にのっとった国際親善のためのものであるという大きな違いを除けば、英文ニュースや番組を短波で放送するという仕事自体はほとんど変わっていない。アイバ・トグリが戦前放送していた内幸町のNHK放送会館も、私が入局したてのころはまだ残っていて、時代こそ違え「東京ローズ」と同じ建物で仕事をしていたことになる。

そして、さらにもうひとつの共通項は、まさにこのUCLA日本同窓会と関係があるわけだが、「東京ローズ」、アイバ・トグリはカリフォルニア大学ロスアンゼルス校の卒業生であり、彼女は大学の大先輩にあたるわけなのである。

共通項はそれで終わりである。

しかし、もうひとつだけ思い出すことがある。実は在職中、放送開始40周年の記念番組に彼女に出演してもらおうと一度だけ周辺をアプローチしたことがある。「東京ローズ」の著書もあるドウス昌代氏を上司に紹介してもらい、アイバ・トグリのご両親(一世であった)が経営するシカゴの食品雑貨店に出演交渉の電話をしたのである。

国際電話が繋がった瞬間、もしご本人が電話口に出られたら何と言おう、と胸がどきどきしたことを覚えている。しかし実際電話口に出られたのは、ご兄さまと思しき方で、用件をお話したところ「本人はもう何も言うことは無い、出演は受けられない」とにべもなく断られた。大いに落胆したことを思い出す。戦犯の汚名を着せられた経緯からして、「口は災いの元」と堅く誓われたのであろう。NHKの昔の職場から同じ短波放送のメディアで、自由に自分の言い分を述べてもらおうと言う企画は、幻に終わった。

戦時放送史に名が残る「東京ローズ」。一方、戦後の平和の時代、26年間の放送人生を一英語アナウンサーとしてつつがなく終えることが出来た私は、無名ではあったが幸せでもあった。そして組織の中のアナウンサーの役割を良く知っている身には戦後「東京ローズ」として名乗り出たアイバを待ち受けた禁固10年、罰金1万ドル、さらにアメリカ市民権剥奪の判決は、あまりにも過酷であったように思える。

しかし1977年、フォード大統領の特赦によりアイバ・トグリは市民権を回復。アメリカの正義を遥か日本からかいま見ることが出来た私は、安堵の胸をなでおろしたことである。


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真の「東京ローズ」は誰だったのか。当時9名いた女性アナウンサーの中で、薫り高い「rose」という名に値する人は別人だというのが終戦記念日の番組の主張で、アイバ・トグリは冤罪を被ったということになる。

歴史上に名を残すことと引き換えに「東京ローズ」が失ったものはあまりに大きい。庶民は「普通の人」であることを喜ぶべきなのであろう。

(2010年現在、NHKの海外放送はテレビの時代に入ってざっと2年になる。短波放送は形骸化しつつあり、「ラジオ・ジャパン」はNHK World TVに生まれ変わろうとしているのである。)

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日記 | 01:00:26 | トラックバック(0) | コメント(0)